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東京地方裁判所 平成10年(ワ)18579号 判決

原告 ダイアパレス白山第二管理組合

右代表者理事長 椎名祥子

右訴訟代理人弁護士 玉木賢明

被告 諸岡君枝

被告 川崎まつ

被告 浅沼京一

被告 市村房子

被告 河野隆夫

被告 三ツ井陽子

被告 王門永寿

被告 平田彦市

被告 上承之

被告 鈴木賢一

被告 稲垣政一

被告 池田賢一郎

被告ら訴訟代理人弁護士 馬場恒雄

右訴訟復代理人弁護士 吉能平

被告ら訴訟代理人弁護士 田中史郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、七個の埋め込み式コンクリート土台の上に直線で張られた全長約一一・七メートル、高さ約八三センチメートルの金属製フェンス(以下「本件防護柵」という。その設置場所は別紙図面表示のとおりである。)を撤去せよ。

第二事案の概要

一  前提となる事実

1  原告は、別紙図面に表示された東京都文京区白山二丁目三〇番七号所在のダイアパレス白山第二(以下「本件マンション」という。)という分譲マンションの区分所有権者を構成員とする管理組合である。その構成員らは、本件マンションの敷地(別紙図面のA部分)の共有者である。

2  被告らは、別紙図面のB部分の私道(以下「本件私道」という。)の共有者である。

3  原告は、平成九年三月中旬、別紙図面のC部分(本件マンションの敷地の一部を構成している。)に駐輪設備(以下「本件駐輪設備」という。)を設置した。

4  被告らは、同年四月下旬、本件私道上の別紙図面記載の位置に本件防護柵を設置した。

二  争点

本件における争点は、原告請求に係る本件防護柵の撤去の可否である。

この点に関する原告の主張は後記三、被告らの主張は後記四のとおりである。

三  原告の主張

1  原告の構成員らはC部分の共有者である。原告は、本件マンションの防犯態勢を整備する一環としてC部分に駐輪設備を設置することにしたのであるが、これにより第三者に何らの不利益を与えるものではない。しかるに、被告らの本件防護柵の設置行為により、原告の構成員によるC部分及び駐輪場の十全なる利用を侵害されている。よって、C部分の所有権に基づき、本件請求をする。

2  被告らは、本件駐輪設備の設置によっても、本件私道の利用上何ら不利益を被るものではない。しかるに、被告らは、原告によるC部分、ひいては本件駐輪設備の利用を妨害するためにのみ本件防護柵を設置した。よって、被告らの右行為は民法七〇九条、七一九条の不法行為を構成するというべく、それに基づき本件請求をする。

3  本件私道は被告らの共有地であるが、道路位置指定を受けているのであるから、被告らは、一般公衆の通行を忍受すべき公法上の義務を負う。ところで、原告の構成員にとって本件駐輪設備の利用は必要不可欠のものである。他方、被告らは、それによって実質的には何の損害も被っていない。

それにもかかわらず、ただただ本件私道の共有者であることを理由に本件防護柵を設置した被告らの行為は、原告の構成員の人格的権利を侵害し、また、権利濫用にも該当するので、本件請求をする。

四  被告らの主張

そもそも本件マンションが建築される際、施工主は、被告らとの間で、「本件私道側には出入り口を造らず、私道部分については被告らに迷惑をかけない」ことを合意した。そして、C部分は、長年にわたり右合意にしたがって利用されてきたのである。しかるに、原告は、被告らに対し、事前に告知することも、了解を取り付けることもなくC部分に本件駐輪設備を設置し、右合意に違反した。

ところで、本件私道に進入する自動車は、下り坂をバック走行する方法によってしか公道に戻れないので、本件防護柵を設置しないと、駐輪設備から出入りする自転車と衝突する危険性が高くなる。その結果、本件私道の共有者である被告ら一二世帯は、自家用車、宅急便、救急車、消防車、パトロール車等の緊急用自動車等による本件私道への出入りに著しい不便を来すことになり、著しい不利益を受ける。こうしたところからすれば、本件防護柵の設置により守られる被告らの利益の方が、それにより制約を受ける原告の利益よりも優越することは明らかである。

第三当裁判所の判断

一  本件の経緯について

前記前提となる事実に、証拠(甲一、二、四ないし六、九ないし一一、一五、一六の1、2、乙一、証人鎌田美子、被告諸岡君枝)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件私道は、被告らが共有し、建築基準法四二条二項の規定に基づきいわゆる二項道路として指定されているものである。公道(白山通り)から本件私道に進入した四輪自動車が公道に戻るには、本件私道をバック走行で戻るしか方法がない。しかも、本件私道は、白山通りに向かって下り板となっている。

2  本件マンションは、昭和五六年から五七年にかけて、ダイヤ建設株式会社により建築された。建築主は、その建築に先立ち、近隣に居住していた被告諸岡らに対し、「本件私道の通行には迷惑をかけない。そのため、本件私道に面したところには出入口をつけない。」、「本件私道は、被告らが公道に出るための私道なので、二メートルほどセットバックするので、道幅が広くなる。」との趣旨の説明をした。

3  本件マンション建築後のC部分の利用状況は、次のとおりである。

C部分は、おおむねその全てが本件マンション建築に際しセットバックされたいわゆる二項道路を構成している。C部分の本件私道寄りの境界付近には、本件マンション建築当初から、高さ一メートル程度の数本の金属棒が設置され、それに支持された鎖により、C部分と本件私道との境界が画されていた。その鎖が古くなり使えなくなった後は、ロープが張られていた。

C部分の利用状況としては、本件マンションの壁に接して水道と流しが設置されていたほか、管理人管理のゴミ収集用のポリバケツが置かれていた程度であり、駐輸場として利用されたことはなかった。時折、ゴミや所有者不明の自転車が放置されることがあったが、被告らがクレームを付けると、速やかに撤去されていた。このように、C部分と本件私道とは、その利用の面でも明確に画されており、一体として利用されてはいなかった。

C部分のこのような利用状況は、本件駐輪設備設置時点まで継続していた。

4  本件駐輪設備が設置された経緯は、次のとおりである。

平成八年九月ころ、本件マンション内で発生した盗難事件を契機として、最寄りの警察署から防犯態勢について指摘を受けた。そこで、原告が中心になって対応策を検討し、本件マンションの一階入口のセキュリティシステムの万全を期すとともに、玄関の内外に乱雑に置かれている自転車を整然と駐輪させるために、C部分に本件駐輪設備を設置することにした。

そして、当時の原告理事長の妻鎌田美子は、右工事に先立ち、平成九年二月ころ、工事業者と共に被告諸岡らを訪ねて挨拶したが、その際には、C部分に本件駐輪設備を設置することについて具体的には説明しなかった。

その後、同年三月に入って、C部分で工事をする動きが出てきた。そして、被告諸岡が現場の作業員に工事内容を尋ねたところ、自転車置き場を作るとのことであったので、即座に、作業員に対しその工事の中止を申し入れたが、聞き入れられずに、同日の夕方本件駐輪設備が完成した。

5  本件防護柵が設置された経緯は、次のとおりである。

被告諸岡は、本件駐輪設備完成後、直ちに、他の被告らと連絡を取り、協議した結果、本件駐輪設備の撤去を求めることに意見が一致したので、その旨を原告に申し入れた。原告の理事長らからは、撤去以外の方法による解決を求められたが、被告らは断り、対応策を原告側で検討してもらうことにした。そして、被告らは、同年四月二日、被告池田宅において、当時の原告の理事長及びその妻美子に対し再度撤去を申し入れたが、拒否された。その際、右美子から、「本件マンション内部に駐輪施設を作り直すには約八〇万円の費用がかかる。今更やり直すのは面倒だ。」との話も出された。

ところで、本件私道に進入する自動車は、下り坂をバック走行する方法によってしか公道に戻れないが、本件駐輪設備の設置により、そこに出入りする自転車と衝突するおそれが生じ、その結果、本件私道の共有者である被告ら一二世帯は、自家用車、宅急便、救急車、消防車、パトロール車等の緊急用自動車等による本件私道の出入りに不便を来すおそれがある。そこで、被告らは、本件私道の安全な利用関係を維持するために、同年四月下旬、本件防護柵を設置した。

以上のとおり認められる。

二  そこで、以下、前記一で認定した事実に基づき、本件防護柵の撤去請求の可否について検討することとする。

1  前記一で認定したところによれば、本件防護柵は、本件私道の安全な利用関係を維持するために、被告らの共有地である本件私道上に設置されたというのである。原告は、本件防護柵は、被告らが原告による本件駐輪設備の利用を妨害するためにのみ設置したものであると主張するが、その主張は、前記一で認定した経緯に照らし、たやすく採用できない。

そうすると、被告らによる本件防護柵の設置は、それによりC部分に設置されている本件駐輪設備の原告の構成員による利用が一部妨げられることがあるとしても、他に特段の事情のない限り、それをもって直ちにC部分の土地の所有権を侵害したり、不法行為を構成したりすることにはならないというべきである。

2  ところで、本件私道は、建築基準法四二条二項の規定による位置指定道路であるというのであるから、これを通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者により妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、特段の事情のない限り、敷地所有者に対して、右妨害行為の排除及び将来の妨害の禁止を求める権利(人格的権利)を有するものと解される(最高裁判所平成九年一二月一八日判決参照)。

そこで、以下、右観点に立って、検討する。

(一) 前記一で認定したところによれば、C部分の利用状況等は次のとおりであったというのである。すなわち、C部分は、おおむねその全てが本件マンション建築に際しセットバックしたいわゆる二項道路を構成している。そして、本件マンション建築後のC部分の利用状況は、本件マンションの壁に接して水道と流しが設置されていたほか、管理人管理のゴミ収集用のポリバケツが置かれていた程度であり、マンションの住民による駐輪場として利用されたことはなかった、また、その本件私道寄りの境界付近には、本件マンション建築当初から、高さ一メートル程度の数本の金属棒が設置され、それに支持された鎖により、C部分と本件私道との境界が画され、その鎖が使えなくなった後は、ロープが張られていたというのである。

このように、C部分は、その大部分が本件マンションの建築の際にセットバックした土地であるが、その利用の面でも、本件私道とは明確に画されており、C部分が本件私道と一体として利用される関係にはなかったというのである。

こうしたところからすると、本件防護柵の設置の前後を通じて、原告の構成員を含めた公衆による本件私道の利用形態には、何らの変動も生じていないものと判断される。

(二) 次に、原告がC部分に本件駐輪設備を設置した理由については、前記一4で認定したとおり、平成八年九月ころ本件マンション内で発生した盗難事件を契機として、最寄りの警察署から防犯態勢について指摘されたことを受けて、原告が中心になって対応策を検討した結果、本件マンションの玄関の内外に乱雑に置かれていた自転車を整然とした形で駐輪させるために設置したというのである。

ところで、被告諸岡本人尋問の結果によれば、本件駐輪設備が設置された後の交渉過程での原告側からの説明によれば、余分に約八〇万円を支出することにより、C部分以外に駐輪設備を設置する等できるというのである。また、証人鎌田の供述によれば、原告は、駐輪設備設置の計画段階から、本件マンションの居住者の利用する自転車全部を収容できないことを予期しつつ、約二〇台収容できる規模のものとして設置し、そこに収容できない分については区の駐輪施設等に駐輪することを考えていた、本件防護柵が設置されたことにより、本件駐輪設備からの自転車の出し入れに不自由が生じているが、一〇台程度は格別の支障もなく収容できる、というのである。

こうしたところからすると、本件防護柵が設置されたことに伴う原告の構成員が被る不利益は、C部分に設置された本件駐輪設備の利用が一部制約を受けるというに止まるものであり、また、本件マンションの防犯態勢の整備という観点からしても、本件防護柵の撤去が唯一の方策というのではなく、それに代わり得る措置が存在するものというべきである。

そうすると、本件防護柵の設置により、原告の構成員において、本件私道の利用について日常生活上不可欠の利益を害されているということはできないといわざるを得ない。

(三) 他方、本件私道に進入する自動車は、下り坂をバック走行する方法によってしか公道に戻れないので、本件防護柵が設置されていないと、本件駐輪設備から出入りする自転車と衝突するおそれがあり、本件私道の共有者である被告ら一二世帯は、自家用車、宅急便、救急車、消防車、パトロール車等の緊急用自動車等による本件私道の出入りに不便を来すおそれがあるというのである。

以上(一)ないし(三)において説示したところを総合考慮すると、被告らの本件防護柵の設置をもって、原告の構成員の人格権的権利を侵害したものと認めることはできないといわざるを得ない。

3  そして、以上説示したところにかんがみると、本件においては、C部分の所有権侵害又は不法行為に基づく妨害排除請求を理由あらしめる特段の事情が存在するものと認めることもできない。

三  以上の次第であるから、原告の請求は、理由がないことに帰する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金井康雄)

別紙<省略>

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